先行研究の調べ方とまとめ方|卒論の土台のつくり方
先行研究とは「自分の問いに関係する、これまでの研究」です。目的は2つ——①何がすでに分かっているかを知る ②自分の研究が何を足すのかを示す。探す場所は学術情報のデータベースと大学図書館で、一般的な検索エンジンで出てくる記事は先行研究ではありません。読み方には順序があり、要旨→結論→図表→本文の順で見ると効率的です。まとめ方の要点は、論文ごとに並べるのではなく「論点ごとに整理…
「先行研究を調べておいて」と言われて、検索窓の前で止まる。
卒業論文の第一歩は、先行研究を調べることです。ところが、この作業の具体的な手順を教わる機会は、ほとんどありません。
結果として、インターネットで検索して出てきた記事を眺めて終わるという状態になりがちです。それでは、論文の土台になりません。
この記事では、先行研究とは何か、どこで探すか、どう読むか、どうまとめるか、そして論文にどう書くかまでを整理します。
この記事を7枚で
1 / 701先行研究とは何か
これまでの研究のことです。
- 先行研究とは、自分が扱おうとしている問いについて、これまでに行われた研究のことです。
- 重要なのが、「関係する範囲」という点です。分野全体のすべてを読む必要はありません。
- 自分の問いに直接関わる研究を押さえることが目的です。範囲は問いによって決まります。
なお、「先行」という言葉に引きずられないでください。古い研究だけを指すわけではありません。数か月前に発表された論文も、自分より先に行われた研究であれば先行研究です。むしろ、新しい研究ほど現在の到達点を示しているため、重要度が高いことが多くあります。
この作業が卒論の土台になる理由は明快です。先行研究を押さえていない研究は、評価のしようがないからです。何が新しいのかを判断するには、既存の到達点との比較が要ります。逆に言えば、先行研究がきちんと整理されていれば、それだけで論文の骨格は半分できています。
なお、どこまでを「関係する範囲」とするかは、問いが定まるほど明確になります。問いが漠然としていると、何を読めばよいかも決まりません。テーマの絞り込みと先行研究の収集は、往復しながら進むものだと考えてください。
02なぜ必要なのか
2つの目的があります。
先行研究を調べる目的は、この2つです。
①は当然です。すでに答えが出ていることを繰り返しても、研究になりません。
②が重要です。論文では、「これまでこう分かっていた。しかし◯◯は未解明である。本研究はそこを扱う」という形で、自分の位置を示します。
この2つの目的を意識していないと、先行研究の章が「読んだものの報告」になってしまいます。何本読んだかは評価されません。読んだ結果として、自分の研究の位置が示せているかが問われます。作業の途中でも、この目的に立ち返ってください。
なお、②の位置づけは小さくて構いません。卒業論文に求められるのは、学術的に画期的な発見ではありません。「この対象については扱われていなかった」「この時期については検証されていなかった」——その程度の位置づけで十分に成立します。大きな新規性を求めて動けなくなる方が問題です。
目的を見失わなければ、作業の優先順位も自然に決まります。
03何が先行研究になるか
学術的な資料です。
- 先行研究として扱えるのは、学術的な手続きを経た資料です。
- 中心になるのが学術論文です。学会誌に掲載されたものは、審査を経ています。
- なお、何が適切な資料かは分野によって異なります。指導教員に確認してください。
なお、紀要という言葉に馴染みがないかもしれません。大学や研究機関が発行する学術雑誌のことで、多くが無料で公開されています。学部生でもアクセスしやすく、卒論の先行研究としてよく使われます。
なお、分野によっては学会発表の予稿も重要な情報源になります。論文化される前の最新の研究が出ているためです。
なお、学部生向けの図書と研究書の区別がつかない場合は、教員に聞いてください。判断の基準を教えてもらえます。慣れるまでは、自己判断より確認が確実です。
04先行研究にならないもの
ここを間違えないでください。
- 最も多い誤りが、一般のウェブ記事を先行研究として扱うことです。
- これらは学術的な審査を経ていません。内容の正確性が担保されていません。
- なお、新聞記事や統計資料は「データ」として使えることがあります。先行研究とは役割が違います。
なお、入門書や教科書は理解のために有用です。分野の全体像をつかむには適しています。ただし、先行研究として引用するのは慎重にしてください。個別の研究成果ではなく、定説をまとめたものだからです。
なお、百科事典は出発点として使えます。基本的な用語や全体像を把握するには有用です。ただし、そこで終わらせないでください。
05どこで探すか
3つの経路があります。
- 先行研究を探す経路は、大きく3つです。
- 出発点になるのが学術データベースです。論文を検索できる仕組みが用意されています。
- そして、見つけた論文の参考文献から辿る方法が最も効率的です。これは後述します。
なお、一般的な検索エンジンを使う場合でも、学術文献に限定した検索機能を使えば有用です。ただし、そこで出てきた資料が学術的な審査を経たものかは、自分で確認する必要があります。
この3経路を組み合わせると、必要な範囲は十分にカバーできます。
06データベースの使い方
大学が契約しています。
- 大学は、学術データベースを契約しているのが通常です。学生は無料で使えます。
- どのデータベースが使えるかは大学によって異なります。図書館のサイトで確認してください。
- 多くの大学で、使い方の講習会が開かれています。自己流で探すより、はるかに効率的です。
なお、学外からアクセスできる仕組みを整えている大学が多くあります。自宅で作業する場合は、その手続きを先に済ませておいてください。図書館のサイトに案内があります。
なお、分野ごとに専門のデータベースがあります。総合的なものだけでなく、自分の分野向けのものを図書館で確認してください。
07検索語の立て方
ここで結果が変わります。
- 検索で結果が出ない最大の原因は、検索語が適切でないことです。
- 日常的な言葉では出てこないことがあります。その分野で使われる専門用語に置き換えてください。
- 専門用語が分からない場合は、1本でも論文を見つけて、そこで使われている語を拾う方法が有効です。
なお、検索は一度で終わりません。語を変え、組み合わせを変え、何度も試すのが普通です。1回で出てこなかったからといって、その分野に研究がないわけではありません。
検索語を広げる具体的な方法が、見つけた論文のキーワード欄を見ることです。多くの論文には、著者が設定したキーワードが記載されています。そこに並ぶ語が、その分野の標準的な検索語です。自分で考えるより確実です。
検索の工夫だけで、得られる文献の量は大きく変わります。
08図書館を使う
相談できます。
最も活用されていないのが、図書館のレファレンスサービスです。
「こういうテーマで探しているのですが」と相談すれば、専門の職員が探し方を教えてくれます。
また、所蔵していない資料を他大学から取り寄せることもできます。詳しくは大学図書館の使い方|貸出・取り寄せ・学習スペースの活用で扱っています。
なお、相談するときは具体的に伝えてください。「卒論の資料を探しています」より「◯◯について、△△の観点から書かれた論文を探しています」の方が、的確な案内を受けられます。
なお、図書館は混雑する時期があります。卒論の締切前は相談が集中するため、早めに利用してください。
09芋づる式に広げる
最も効率的な方法です。
先行研究を集める最も効率的な方法が、見つけた論文の参考文献から辿ることです。
論文の末尾には、その研究が参照した資料が並んでいます。関連性が高いものばかりです。
そして、複数の論文で繰り返し引用される文献があれば、それはその分野で重要な研究です。優先して読んでください。
なお、辿る方向は過去だけではありません。その論文を引用している新しい論文を探す機能を持つデータベースもあります。両方向に辿ると、分野の流れが見えます。
なお、辿りすぎて範囲が広がることもあります。自分の問いとの関係が薄くなったら、そこで止めてください。
10入手できないとき
方法があります。
- 読みたい論文が手元で読めない場合、諦める必要はありません。
- 図書館を通じて、他大学から取り寄せたり複写を依頼したりできます。費用と日数はかかります。
- また、大学の機関リポジトリで公開されている論文もあります。検索してみてください。
なお、取り寄せには数日から数週間かかります。必要になってから依頼すると間に合わないことがあります。読みたい文献が分かった時点で手配してください。
なお、複写には著作権法上の制約があります。図書館の案内に従って依頼してください。
11読む順序
全文から読まないでください。
論文は、最初から順に読む必要はありません。
まず要旨と結論を読んでください。それだけで「自分に関係あるか」が判断できます。
関係があると分かってから、必要な部分を詳しく読む。この順序なら、多くの論文を効率的に処理できます。
なお、分野によって論文の構成が違います。要旨がない論文もあります。その場合は、冒頭と末尾を先に読んでください。
なお、すべてを理解できなくて構いません。学部生が最新の専門論文を読み切れないのは当然です。分かる範囲で要点をつかんでください。
この順序を守るだけで、処理できる本数が増えます。
12何を見るか
4点を押さえてください。
論文を読むときは、この4点を押さえてください。
特に重要なのが「限界」です。著者自身が「本研究では扱えなかった」と書いている部分に、自分の研究の余地があります。
この4点をメモしておけば、後でまとめるときに使えます。
なお、批判的に読むことも必要です。書かれていることをそのまま受け取るのではなく、方法は適切か、結論は根拠に支えられているかを考えながら読んでください。
なお、方法の部分は特に注意して読んでください。同じ問いでも、方法が違えば結論が変わります。
この4点を揃えておけば、まとめの作業がそのまま進みます。
13何本読めばいいか
分野と段階によります。
「何本読めばいいか」に決まった答えはありません。分野と研究室の慣行によります。
目安として、テーマ探しの段階で10本程度を概観し、テーマが決まったら関連するものを深く読む、という進め方があります。
すべてを精読する必要はありません。要旨だけ見たもの、精読したもの——濃淡をつけてください。
なお、数にこだわりすぎないでください。重要なのは、自分の問いに必要な範囲を押さえられているかです。本数は結果にすぎません。
なお、読んだ本数より、整理できているかが問われます。30本読んで羅列するより、15本を論点で整理する方が評価されます。
なお、読む量は段階的に増えます。最初から30本を目指す必要はありません。10本読んで整理し、足りない部分を補う——この繰り返しで十分です。
14読んだら記録する
後で必ず効きます。
読んだ論文は、その場で記録してください。
後からまとめようとすると、書誌情報を探し直すことになります。この時間の無駄が、想像以上に大きくなります。
参考文献の書き方は参考文献の書き方|引用の作法と代表的な書式で扱っています。必要な項目を、読んだ時点で控えてください。
なお、引用しそうな箇所はページ番号まで控えてください。後から該当箇所を探すのは、想像以上に手間がかかります。
なお、記録は一か所にまとめてください。複数の場所に分散すると、探す手間が発生します。
記録する数分が、後半の数時間を節約します。
15論点ごとに整理する
ここが最も重要です。
先行研究のまとめで最も多い失敗が、論文ごとに並べることです。
「Aはこう述べた。Bはこう述べた。Cは……」——これは要約の羅列であって、まとめではありません。
正しくは、論点ごとに整理します。「◯◯という論点については、AとBが△△と指摘する一方、Cは□□と論じている」という形です。
なお、論点の立て方は自分で決めます。先行研究を並べているうちに、共通して扱われている論点が見えてきます。それを軸にしてください。
論点ごとの整理ができているかを確認する方法があります。文章の主語が「研究者の名前」ばかりになっていないかを見てください。「Aは〜」「Bは〜」と続くなら、論文ごとの羅列です。「◯◯については〜」と論点が主語になっていれば、整理できています。
なお、整理の過程で自分の問いが変わることもあります。読んでいるうちに、より重要な論点が見えてくるためです。それは後退ではなく、研究が進んでいる証拠です。
16表にまとめる
全体が見えます。
読んだ論文は、表にまとめると整理しやすくなります。
この形にすると、共通点と相違点が見えます。同じ問いに違う答えが出ている、といった対立も分かります。
そして、空欄の列が見えてきます。誰も扱っていない組み合わせが、自分の研究の余地です。
なお、表は論文に載せなくて構いません。自分が整理するための道具です。ただし、分野によっては論文中に含める場合もあります。
なお、表は随時更新してください。読み進めるうちに、整理の軸自体が変わることがあります。
表を作る作業自体が、内容の理解を深めます。各論文の要点を数語に圧縮するには、きちんと読めていなければできません。埋められない欄があれば、その論文をもう一度見てください。
17空白を見つける
ここに自分の位置があります。
先行研究を整理する目的の一つが、空白を見つけることです。
最も実用的なのが、論文の「今後の課題」を集めることです。著者自身が未解決だと書いています。
また、結論が食い違っている論点も狙い目です。検証する余地があります。テーマ決めは卒論のテーマの決め方|決まらないときの絞り込み手順で扱っています。
なお、空白がすぐに見つかるとは限りません。読む量が足りないうちは、すべて「もう研究されている」ように見えます。焦らず量を増やしてください。
なお、見つけた空白は教員に確認してください。実は既に研究されている可能性もあります。
量が増えるほど、空白は見えやすくなります。
18論文に書く
構成には型があります。
- 1この分野で何が論じられてきたか
- 2論点ごとの整理
- 3何が明らかになっているか
- 4何が残されているか
- 5本研究が扱うこと
- 先行研究の章は、この流れで書くと機能します。
- 最も重要なのが④と⑤です。ここで、自分の研究の位置づけが示されます。
- この接続がないと、先行研究のまとめが独立した要約になってしまいます。本論とつながりません。
なお、分量は分野と大学によって異なります。全体の何割を先行研究に充てるかは、指導教員に確認してください。
なお、先行研究の章は最後に書き直すことになるのが通常です。本論が固まると、どの先行研究を強調すべきかが変わります。最初に書いたものは下書きだと考えてください。
なお、先行研究と自分の研究をつなぐ一文を必ず入れてください。「以上を踏まえ、本研究では◯◯を扱う」という接続です。この一文があるかどうかで、章の意味がまったく変わります。
土台が固まれば、本論は書きやすくなります。
19やってはいけない書き方
これは避けてください。
最も重大なのが、出典を書かないことです。他人の研究を自分のものとして提示すれば、剽窃になり得ます。
また、孫引き——他の論文に引用されている文章を、原典を見ずに引用すること——も避けてください。
そして、自分の主張に都合のよい研究だけを挙げないことです。反対の立場も示すのが誠実な書き方です。
なお、これらの多くは意図せず起こります。悪意がなくても、結果として不適切な記述になります。書いた後に確認する習慣を持ってください。
なお、引用の形式が分からない場合は、その分野の論文を見てください。実例が最も分かりやすい手本になります。
書いた後の点検を、必ず一度行ってください。
20相談できる窓口
使える場所があります。
- 探し方が分からない場合は、図書館のレファレンスが最も確実です。
- また、指導教員に「まず何を読むべきですか」と聞くのも有効です。分野の基本文献を教えてもらえます。
- 先輩も情報源です。同じ研究室で扱ってきた文献は、共通することが多くあります。
- なお、相談は早い段階からしてください。探し方を知らないまま時間を使うより、はるかに効率的です。
- なお、先輩の卒論を見せてもらうのも有効です。どの程度の分量と深さが求められているかが分かります。
- まずは探し方を知るところからで構いません。
21よくある質問
先行研究とは何ですか?
自分の問いに関係する、これまでに行われた研究のことです。学術論文や研究書が中心になります。分野全体のすべてを読む必要はなく、自分の問いに直接関わる範囲を押さえることが目的です。
ウェブ記事は先行研究になりますか?
なりません。一般のウェブ記事は学術的な審査を経ておらず、内容の正確性が担保されていません。学術論文、研究書、公開されている博士論文などが対象です。何が適切かは分野によるため、指導教員に確認してください。
どこで探せばいいですか?
大学が契約している学術データベースが出発点です。使えるものは大学によって異なるため、図書館のサイトで確認してください。多くの大学で使い方の講習会が開かれています。
検索しても出てきません。
検索語が適切でない可能性があります。日常的な言葉ではなく、その分野の専門用語に置き換えてください。専門用語が分からない場合は、1本でも論文を見つけて、そこで使われている語を拾う方法が有効です。
効率的に集める方法はありますか?
見つけた論文の参考文献から辿る方法が最も効率的です。関連性の高い資料が並んでいます。複数の論文で繰り返し引用される文献があれば、それはその分野で重要な研究です。
論文はどう読めばいいですか?
要旨→結論→図表→序論→本文の順です。まず要旨と結論を読めば、自分に関係あるかが判断できます。関係があると分かってから必要な部分を詳しく読むと、多くの論文を効率的に処理できます。
何本読めばいいですか?
分野と研究室の慣行によります。目安として、テーマ探しの段階で10本程度を概観し、テーマが決まったら関連するものを深く読むという進め方があります。すべてを精読する必要はありません。
まとめ方が分かりません。
論文ごとに並べるのではなく、論点ごとに整理してください。「Aはこう述べた。Bはこう述べた」は要約の羅列であってまとめではありません。「◯◯という論点について、AとBは△△と指摘する一方、Cは□□と論じている」という形にします。
読みたい論文が手に入りません。
図書館を通じて他大学から取り寄せたり、複写を依頼したりできます。費用と日数はかかります。また、大学の機関リポジトリで公開されている論文もあります。教員が入手方法を知っている場合もあります。
孫引きはなぜいけないのですか?
引用元の解釈が正確とは限らないためです。他の論文に引用されている文章をそのまま使うと、誤りをそのまま引き継ぐ可能性があります。原典を確認してください。入手できない場合の扱いは、指導教員に相談してください。
22まとめ|論点で整理する
目的は2つです。何がすでに分かっているかを知ること、そして自分の研究が何を足すのかを示すこと。
探す場所は学術データベースと図書館です。一般のウェブ記事は先行研究になりません。見つけた論文の参考文献から辿るのが最も効率的です。
読む順序は要旨→結論→図表→本文。最初から全文を読む必要はありません。関係があると分かってから詳しく読んでください。
まとめるときは論点ごとに。論文ごとの要約を並べても、まとめにはなりません。
最後に。読んだ時点で書誌情報を記録してください。後からの探し直しが、最も時間を無駄にします。